災いが蔓延する時代にこそ大切にしなければならないのは人々の絆やつながりだろう。しかし、地域の血縁や地縁の結びつきが強くなることで、よそ者である学生たちは、地域の現場に容易に入ることができなくなっている。さらに企業や大学と契約によって結ばれている地域との絆は、細く脆く、次第に雲散霧消してしまっている。さらに一部の強い縁が影響して、広く多様な地域に無縁社会を生んでいることも事実だ。
そんな状況下で、自身の無垢な目的やモチベーションによって心動かされ地域に寄り添っていく学生たちの自主的な活動は、地域の門戸を緩め、次第に血縁を超えた地縁を生み出すことにつながっていくのではないだろうか。勝手な口実で入った地域であっても、予想しない相手と予期しない仕方や場所で遭遇する偶然の出会いこそが、相手を受け入れ、対話の第一歩となっていく。そして相互の理解が深まり、地域の課題に協働して取り組む姿勢が、皆の期待に変わってくるのである。こんな時代であっても学生たちや地域の人たちの活動に停滞はない。地域にうまく埋没して心強い地域人として互いに紡ぎ合い、しっかりとした絆を結んでいく彼らの姿が想像できる。地域への愛着が生まれ、活動の目標を全く疑うことなく、学生たちは地域の課題解決の当事者となって行動していくのである。成功物語や様々なお手本を真似しようとするが、そんな初々しさも、多様な地域性や、現在の世界状況のような異例の事態には対応できないことを次第に知ることになる。こんな事態の中では優等生的に結果、成果を目標にプログラムされた活動は役に立たない。即興的に対応できる判断と行動力が必要だ。多くの軋轢を生んでも、「学生の分際」という肩書が大目に見てくれるだろう。
地縁が作り出す人間関係や、赤の他人とのご縁づくりがこれからの地域には求められている。よそ者で素人の学生たちだからこそ、地域の人たちの懐に入って、ご縁のきっかけを誘発することができるだろう。私たちの社会は、今やこんな若い学生たちの力で支えられるほどひ弱で、無責任な地域を形成してしまっている。学生たちが学ばせてもらえるようなしっかりとした地域、そして地域も一緒に学び成長していくような関係こそ、縁と言えるのではないだろうか。学生が大学生活の中で地域との出会いを得ることこそが、これからの地域づくりの継承、持続の鍵となるはずだ。
私の研究室からはすでに3名の地域おこし協力隊員を輩出している。地元滋賀県、宮城県、北海道で、まちづくり支援、地域産業支援、文化デザイン事業などで活躍している。近江楽座で活動した学生たちが、卒業後社会に出てさらなる地域との出会いによって多くの縁を生んでいくだろう。地域や社会が、個人主義的な無縁な世界に向かっている現実に対して、これからの未来、将来の地域を築いていく若者たちが、人々の絆、地域どうしの繋がりを企て、地縁のある社会を生んでくれることを願わずにはいられない。そのためには、大学や地域は彼らへの投資を惜しんではならない。
近江楽座活動報告書(2020)
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