現在日本全国で活動している地域おこし協力隊員数は、平成27年度現在で2,625名まで達している。平成21年の創設当初89名だった隊員数がこれだけ増えた要因は何なのだろうか? “豊かな自然や歴史、伝統文化に恵まれた”というまるで地方の定義のような生活イメージを囁かれ、地方の未来に危機感を持った若者たちが突然、地方に移動し始めたように見える。建築家の黒川紀章氏が半世紀前に提唱したホモ・モーベンス(動民)の社会現象のようにも見える。本当にそうだろうか。
交通や情報インフラの発達によって人の移動時間距離が縮小し、情報移動のタイムラグがなくなった。地方同士の移動や連携が容易になり、都市の周縁での活動や生活がスマートで、憧れとして見られるようになったことも要因だろう。地域おこし協力隊員が主役となったTVドラマ(遅咲きのヒマワリ・2012年)や、地域おこしに奔走する県庁職員を描いた映画(県庁おもてなし課・2011年)などが、そのリアルさを後押しして、一気にブームにもなった。昔は寅さんシリーズ(男はつらいよ・1969〜95年)によって日本全国100ヶ所以上の町がロケ地に採用され、地方の魅力や人情を伝えていった。これが後にフィルミコミッションや、アニメツーリズムとして地方行政の戦略に加わった。大河ドラマの誘致合戦、世界遺産への登録推進などもそのひとつだ。最近は地方創生PR動画制作が盛んだ。自虐的なものからユーモア溢れるものまで行政の許容幅の広がりには目を見張る。
地域おこし協力隊は、地域の問題解決作として、国の制度として生まれたということを理解しておかないといけない。高齢化、人口減少への地方の危機感に対して、都市住民の移住定住策のへの布石なのだ。企業や空港、美術館の誘致と同じように大学の誘致合戦が盛んな時期もあった。そのほとんどが行政のお荷物や地域の負の遺産になってしまっている事例が少なくない。そんな国や行政主導の施策にはあまり期待できない。国の制度には綻びが生じることが少なくない。地域活動への入り口は、その土地でしっかりとした日常生活を始めることなのだ。お客さんとしてではなく、普通に生活することが容易でないことを知る、気づく。そして問題を解決しながら魅力ある生活資源を発見していく。自分と地域が一緒に変化、成長していく過程を享受する。将来、未来を描いていく。これが地域活動だと思う。
地方の大学は、その地域のその地域で育った学生と全国の地域から移り住む学生の共同体だ。一緒に学び、成長している。若者たちは地方の魅力に気付き始めている。箱物や経済資産のパワーではもう惹きつけられない。彦根市の場合、滋賀県立大学を含め3つの大学の学生と教職員の在籍数だけでも人口の1割近くになる。地域がインキュベーターの役割を果たすことで、大学は未来への人材資源の宝庫となる。これから大学に求められる知のリソース(資源)は、あらゆる研究領域で未来貢献できる人材育成と、未来を描く研究活動だ。私たち近江楽座は、地域おこし協力隊が生まれる前から地域の中で活動してきた。その成果は将来必ず、人材や研究成果として地域に帰って貢献につながるだろう。これが地方の大学が果たす役割であり、しかもその活動、存在は既に地域の資源になっている。
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